遺言執行

遺言執行者に指定されたら、することを簡単に解説

遺言書に〇〇を遺言執行者に指定する。

との文言があり、遺言執行者に指定されてしまった方は何をしなければならいないのでしょうか。

遺言執行者の職務は非常に幅広く、業務の全てを理解するのはとても大変です。
(財団法人の設立や信託の組成など)

そこで、一般的によくある遺言執行者の職務について、簡単に解説しています。

なお、記載内容は平成元年7月1日以降に開始された相続を前提としています。

遺言執行者とはそもそも何か

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理などの遺言の内容の実現に必要な行為を行う人のことです。

遺言書に「不動産を長男に遺贈する」と書かれているだけでは、不動産の名義(登記)を長男に移したことにはなりません。

不動産の名義(登記)を長男に移すには、書類を揃えて法務局に登記を申請するのですが、こういった登記の申請や、預貯金の解約手続き、有価証券の名義変更などの具体的な手続きを行うことができるのが遺言執行者なのです。

遺言執行者は責任が重い

遺言執行者は法律で非常に広範な権利を与えられていますが、同時にしなければならない義務もいくつも課せられています。

遺言執行者が仕事をしないなど、いい加減なことをした結果、損害を被る人が出てきた場合には、損害賠償の請求等の、責任を問われるケースもありえます。

遺言執行者への就任を承諾する

遺言書にあなたの名前があり「〇〇を遺言執行者に指定する」と書かれていたら、まず、遺言執行者に就任するか、しないかの判断をしなくてはなりません。

上記の通り、遺言執行者には重い責任があります。

また、一度就任を承諾すると承諾の撤回は認められません。

遺言執行者を辞任するには、正当な理由がある場合に、家庭裁判所の許可を得る必要あります。

就任を承諾するか、拒絶するかは慎重に検討しましょう。

遺言執行者への就任承諾または、就任拒絶は他の相続人に対してする必要がありますが、
承諾する場合は、下記の遺言書の通知と同時にするようにします。

遺言の内容を相続人等に通知する

遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。

具体的には、書面を作成してすべての相続人に郵送するようになります。

遺言の内容については、遺言書のコピーを添付します。

また、書面には遺言執行者への就任を承諾する旨の他、下記についても簡潔に記載しておくと、後の手続きで手紙を受け取った相続人からの協力を得られやすくなります。

書面に記載する内容(例)

  1. 被相続人が死亡したこと
  2. 遺言の方式や発見した状況
  3. 遺言の内容(遺言書のコピー)
  4. 遺言執行者への就任承諾をした旨
  5. 遺言執行者の権限や仕事内容の説明
  6. 相続人による財産の処分行為に制限がかかること
  7. 遺言執行の費用や遺言執行者の報酬について
  8. 執行しようとする遺言を撤回する内容の遺言の存在や処分行為の有無のお訪ね

また、この通知については相続人だけではなく、遺言書で遺贈を受けている人など、利害関係者にも通知をしておくと、その後の手続きがスムーズに進みます。

遺言書を検討する

遺言書は何度でも書くことができます。

後で書いた遺言書で、前の遺言の内容を取消すこともできます。

また、遺言書を書いたあとで、遺贈した財産を別の方に売却するなどした場合には、遺言書の内容を取消したものとみなされます。

まだ、発見されていない遺言書がないか、再度確認しましょう。

遺言書の有無はご自宅のほか、公証役場での遺言検索、法務局での自筆遺言照会によって確認することができます。

また、遺言書は様式が備わっていないと無効となる場合があります。

特に、自筆遺言の場合は様式を満たしているか、確認をしましょう。

財産調査と財産目録を作成して相続人に通知する

遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に対して交付しなければなりません。

相続財産調査をどこまでするのかは、ケースバイケースですが、遺漏の無いように注意しながら調査をします。

主な財産調査の対象は不動産、預貯金、有価証券、動産、自動車、船舶などです。

また、貸金庫がある場合は証書類が保管されていることがあるので、注意が必要です。

借金などの債務については、原則として調査の必要はありませんが、権利だけでなく義務も承継することになる包括遺贈の場合などは、債務についても調査を実施します。

調査した結果を財産目録にまとめますが、この際に必ずしも各財産の評価額を記載する必要はないものと思われます。

作成した、財産目録は相続人に通知をします。

遺留分について

被相続人の配偶者、子、直系尊属が相続人となった場合、各相続人には遺留分という権利があります。

遺留分は相続財産に対する一定の割合を請求することができる権利のことで、遺言書はしばしばこの遺留分を侵害する内容であることが多いです。

「全ての財産を長男に相続させる」これは、配偶者や長男以外の子の遺留分を侵害する内容になっています。

令和元年7月1日以降に開始した相続では、遺留分侵害があった場合は金銭請求をすることができる、とされています。

遺留分を侵害する内容の遺言も無効ではなく、遺留分権利者は遺贈を受けた方や、上記の長男のような方に対して金銭請求をすることができるにすぎません。

このため、遺留分を侵害する内容の遺言についても、遺言執行者はそのまま手続きを進めてよいと考えられれます。

財産の承継手続きを実施する

財産目録を相続人に交付したら、相続財産を遺言の内容にしたがって、各相続人に移していく手続きを実施します。

この移す手続きは、財産の形によって様々ですが、主な財産については下記のように手続きを進めます。

不動産については、相続登記を申請します。

貴金属や絵画など、登録の必要のない動産については受遺者に引渡しをします。

自動車は名義変更の登録を行います。

預貯金は解約の上、受遺者の口座に振り込むなどします。

上場株式については、証券会社に名義変更の手続きをします。

遺言執行に係る費用の支出について

遺言執行の手続きを進めるにあたり、様々な費用がかかります。

下記のような、遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とするとされています。

  • 遺言の検認手続き費用
  • 各相続人への通知にかかる郵送費など
  • 財産調査時にかかる、金融機関の手数料など
  • 遺言執行者の報酬

これらの費用の負担の割合について、相続人間で不公平がでないように、必要に応じて各相続人と事前に調整をしておくことが必要です。

遺言執行者の報酬について

遺言執行者はその業務に対して報酬をうけることができます。

遺言に報酬が定めてあれば、それに従います。

遺言に報酬の定めがない場合は、家庭裁判所に報酬付与の審判を申立てをし、報酬額を決定します。

遺贈をを受ける方が遺言執行者になっている場合などは、報酬を受けることは実質的に意味をなさない場合もあります。

また、必ず報酬を受けなければならないということではありませんので、相続人との関係上無報酬ということでも問題はありません。

遺言執行の任務終了の通知をする

遺言執行者の義務を規定している法律で、遺言執行者は任務の終了を通知することが定められています。

任務終了の通知を誰にするのかが定められていませんが、相続人や受寄者などの利害関係人に文書で通知をするようにしましょう。

また、トラブルを避けるためにも、文書には遺言執行の状況について簡潔に記載しておくことが望ましいです。

遺言執行の状況には、各財産の名義変更などの手続きの概況や、遺言執行に係る費用、報酬などを記載します。

遺言執行者をサポートするサービスがあります

遺言執行者の業務について、簡単に説明をさせていただきましたが、ケースバイケースで判断が必要なこともあります。

手続きに不慣れなために、トラブルになり場合によっては訴訟に発展することも考えられます。

遺言執行者に指定された方は、弁護士・司法書士などのサポートを受けることを検討してください。

財産管理に慣れた専門家にサポートを依頼することで、煩雑な手続きから解放され、安心して財産を承継することができます。

遺言執行者サポート

その他の遺言執行者の職務例

これまでは、財産管理を中心としたよくある遺言執行者の職務について解説してきましたが、遺言執行者の職務は本来はもっと広範なものとなっています。

遺言執行者の職務の一例をご紹介します。

認知

遺言書で子を認知していた場合は、遺言執行者は関係当事者の承諾を得た上で、認知の届出を市区町村役場に提出します。

推定相続人の廃除、廃除の取消

遺言書で推定相続人の廃除、廃除の取消がされていた場合、遺言執行者は事実関係を調査したうえで、家庭裁判所に廃除の審判を申立てます。

遺言による一般財団法人の設立

遺言で一般財団法人の設立をする旨が記載されていた場合、遺言執行者は一般財団法人の定款の作成と認証、財産の拠出、法人設立登記の申請を実施します。

遺言による信託

遺言による信託がなされていた場合、信託組成に必要な手続きを行い、財産の移転、信託登記などの手続きを行います。

遺言による生命保険・傷害疾病定額保険の保険金受取人の変更

遺言により保険金受取人の変更が指定されていた場合、遺言執行者は保険会社への通知、必要に応じて被保険者の同意取り付けなどの手続きを実施します。

 

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